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サブカル雑食手帳

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2009年07月09日

「純潔思想」とドラキュラ

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 1970年代半ば頃に日本TVが放送開始した「テレビ三面記事・ウィークエンダー」はリポーターたちによるキワドいトークや、必ず濡れ場シーンが登場する「事件再現フィルム」などが好評で、PTAからは俗悪番組と指弾されながらも空前の高視聴率を稼いでいた番組である。この番組のリポーターの一人に現自民党参議院議員の山谷えり子がいた。私にとって「テレビ三面記事・ウィークエンダー」は大変思い出深い番組であり、今でも山谷えり子という名前を聞くとまず真っ先に想起するのはこの番組のことなのであるが、それがどうしたことか最近では「純潔思想」とやらの熱烈なる信者として日々布教活動に勤しんでいるというのだから、いやはや世の中とは摩訶不思議なものである・・・・・てなことを考えながら市の図書館から借りてきた「20世紀の外国映画・チラシ大全集・1970〜1979」(近代映画社)という本に集められた70年代の洋画ポスターを漫然と眺めていると昔観た覚えのある「処女の生血」という作品のポスターに目がとまった。これは1974年に公開されたドラキュラ映画のパロディ版ともいうべき作品であり、前年の1973年に公開された「悪魔のはらわた」では臓物フェチの変態チックなフランケンシュタイン男爵を演じた怪優ウド・キアがここでは吸血鬼ドラキュラを演じていた。で、このドラキュラというのがこの作品では処女の生血以外は全く受けつけない体質の持ち主で、処女でない女性の血を吸うとたちまちゲロを吐いてしまうのである。処女がなかなか見つからず、吸っては吐き吸っては吐きを繰り返しているうちに体は衰弱し、ついには立っているのも困難になってしまう。このドラキュラこそはまさしく「純潔思想」を体現した存在というべきではなかろうか。かくして今度は「ウィークエンダー」に代わって「処女の生血」が山谷えり子のイメージと結びつくのであった。
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2009年07月07日

吉原細見からビニ本まで

希代のエロ本蒐集家として名高い松沢呉一氏が2004年から「実話ナックルズ」(ミリオン出版)に連載してきた「エロスの原風景」が単行本になった。定価2800円はちと厳しいが、誘惑に負けて後先顧みず購入してしまった。「江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史」とサブタイトルにあるように、この本には風俗情報誌の原型ともいうべき江戸時代の吉原細見から昭和50年代後半に一世を風靡したビニ本(但し、著者の趣味によるものなのか、ビニ本として紹介されているのはスカトロ本のみ)までの日本エロ出版史が豊富な表紙写真入りで網羅されている。「百聞は一見に如かず」というが、表紙写真は貴重であり、モデル(カストリ雑誌の場合はすべて絵であるが)の髪型、化粧、服装などに色濃く時代が反映されているところも昔のレコジャ同様に趣き深い。DVDの普及によって今やエロ本というメディアは絶滅寸前といった状況であるが、「エロスの原風景」という本はそんな消えゆくエロ本へのオマージュとしても読むことが出来るだろう。
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2009年07月04日

自民党は「サンタフェ」所有者に損害賠償すべき

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 6月26日に行われた衆議院法務委員会に於ける児童買春・児童ポルノ処罰法改正案の審議において、法案提出者である自民党の葉梨康弘議員は、この法案が施行された場合、宮沢りえの写真集「サンタフェ」なども宮沢りえが17歳の時に撮影されたものであることを理由に、これを所持していると「児童ポルノ単純所持」扱いとなる可能性を仄めかした。周知のように、「サンタフェ」(篠山紀信撮影)は、1991年に朝日出版社から発売されるや忽ち150万部の大ベストセラーとなったヘアヌード写真集(但し、全くエロチックではない)で、いわば芸能人ヘアヌード写真集ブームの火付け役となった本である。私の周辺では当時、男性よりもむしろ女性にこの写真集を欲しがる人が多かったように記憶している。 
 実は2日ほど前、行きつけの古書店に立ち寄った際にも、店のオヤジとの間で「サンタフェ」のことが話題に上ったのであるが、店のオヤジいわく、「当時、合法的に『サンタフェ』を購入した者に対し、この本の廃棄を呼びかけ、もし廃棄しなければ児童ポルノ所持者とみなすというなら、政府は当然この本の所有者(古書店も含む)から本を回収するかわりに損害賠償を果たす義務があるはず。18年前も前に出た写真集を手離さずに所有してるってことはこの写真集がそうとう気に入ってるってことだから、精神的慰藉料込みで一冊10000円ぐらいで引取るのが妥当な線じゃないか」と。
店のオヤジによると、最近はやたらとその筋から店頭でのエロ本の配置についての細かい指導(?)が多くなったそうで(これは「表紙があからさまに見える平積みはダメ」とか「床上150センチより下に並べてはダメ」といった類いのもので、忠告に従わなかった場合は50万円ほどの罰金を取られるんだとか)、例のごとく、「何が悲しゅうて、こんな青息吐息の古書店をいじめるのか」とぼやいていた。 


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2009年07月01日

永井荷風没後50年といえば

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 「今年の土用の頃、蔵書の虫干しをしていると、ふと、長持ちの中に二、三冊の古い写本があるのが目に止まったので、暑さしのぎに清書しようとしたついでに、その中の『襖の下張』と題したエロ本も写し直すことにした。まあ、隠居暮らしの退屈しのぎ、お笑い草といったところじゃて。 大地震のちょうど一年目に当たる日、麻布にて金阜山人これを記す。」(「実話と秘録」平成9年11月号掲載「四畳半襖の下張り」<現代版>より)


 今年は永井荷風(1879〜1959)没後50年に当たるため、出版業界ではこのところ永井荷風再評価の機運が盛り上がっているようだが、春本愛好家ならば、永井荷風と聞いてまず真っ先に思い浮かべるのは金阜山人戯作「四畳半襖の下張り」ではなかろうか。この傑作を有名にしたのは、1972年にこの小説を掲載した雑誌「面白半分」(野坂昭如編集)が摘発されたこととその後の裁判闘争であるが、城市郎コレクション「別冊太陽・発禁本(明治・大正・昭和・平成)」によれば、昭和21年春から和綴本の「四畳半襖の下張」が刊行され、警視庁がその件で永井荷風を参考人として召喚したという事件もあったようだ。同書にはこれ以外にも戦後出版された様々な「四畳半襖の下張り」が写真入りで紹介されているが、中には「与情畔不須磨及仕多波里」とタイトルを当て字にしたものもあって、上に紹介した写真はその挿絵として使われたものである。「面白半分」に掲載されたものは擬古文で書かれた原文のため決して読み易いものではなかったが、「実話と秘録」(明文社)平成9年11月号に掲載された現代版は全文平易な現代文に直してあったため読み易かった。全編露骨な性描写で埋め尽されているという点では典型的な春本だが、一方ここには「墨東奇譚」などとも通ずる東京下町の風景へのこだわりや花柳界の女に対する鋭い人間観察などもふんだんに盛り込まれていて、そんなところがこの作品の傑作たる所以なのであろう。

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2009年06月28日

みんな何かにかぶれていた

 生誕100年ということで、マスメディアが挙って取り上げたのが効を奏したのか、若い人達の間ではちょっとした太宰ブームらしきものが起こっているらしい。時代は変われど、太宰の文学というのはいつまでも「悩める青春の文学」であり続けるということなのか。太宰ブームでふと気づいたのは、「〜にかぶれる」という言葉を最近あまり耳にしなくなったことである。試しに「かぶれ」を「実用国語辞典」(成美堂出版)で引いてみると、二つの意味があって、一つ目は「皮膚の炎症」、二つ目は「心情的に感化・影響を受けること」と書かれていた。ここで言う「〜にかぶれる」はもちろん後者の意味であるが、太宰文学のように、たとえ人生の一時期にはのめりこんでも、それが一生続くことなどまずあり得ないようなものにこそこの言葉は相応しいような気がするのである。しかし、最近では「太宰にかぶれる」という言い方はしなくなったようだ。一方、「〜にハマる」という言葉はよく耳にするが、「ハマる」と「かぶれる」ではかなりニュアンスが違うように思う。「ハマる」という言葉には、「かぶれる」という言葉に濃厚につきまとっていたヒロイックな自己陶酔の臭いが希薄だからである。
 
かつて吉本隆明は、三島由紀夫への追悼文(1970年11月25日に,三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地にて自決した直後に書かれたもので、現在は、ちくま文庫「追悼私記」の中に収録されている)の中で、次のように書いていた。 
 
「サルトルを研究すればサルトルにかぶれ、メルロオ=ポンティを研究すればメルロオ=ポンティにかぶれる。毛沢東を研究すれば、毛沢東にかぶれる。そしてもしかすると、天皇制を研究すれば天皇制にかぶれる。サドを研究すればサディズムにかぶれ、バタイユをよめば<死>と<エロス>のつながりとやらにかぶれる。これは<空間>的なかぶれである。 
 したがって<時間>的かぶれというのもある。古代を研究すれば古代主義にかぶれ、武士道を研究すれば<サムライ>にかぶれて、比喩でもなんでもなく<サムライ>気取りになる。これこそが日本の文化的悲喜劇である。
 ところで、人間的悲喜劇というのもある。肉体を鍛練すれば肉体主義にかぶれ、武器をもてあそべば武装主義にかぶれる。そのあげく<自衛隊>などに肯定、否定にかかわらず過剰な意味をつける。なるほどそれは巨きな武装力をもち、いつでも<命令一下>武器を爆発してわたしたちをも、仮装敵国をも殺りくできる存在である。しかし、武器をもてあそび、それに至上の価値を与える者ほど<人形>にすぎない、ということを忘れるべきではない。それらは<命令一下>どんなもったいないほど税金をしぼってつくった武器でも、屑鉄のように捨ててしまえる存在である。」
 
 失礼ながら、最近の吉本隆明からは想像もつかないほど冴え切った文章だが、極言すれば、吉本隆明にこんな文章を書かせてしまうほどに、この当時は「みんな何かにかぶれていた」時代だったということなのかも知れない。

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2009年06月27日

1984年の風景

 村上春樹の新作小説「1Q84」(「アイキュー84」にあ
らず)が爆発的に売れているんだとか。そこはかとなくデジャ
ヴ感漂うタイトルだなと思ったら、どうやらこれ、ジョージ・
オーウェルの近未来逆ユートピア小説「1984年」をもじっ
たものであるらしい。まあ村上春樹「1Q84」にしろ、ジョー
ジ・オーウェル「1984年」にしろ、実際の1984年とは
何の関係もない架空世界のお話なので、今から25年前を振り
返ってみたところで、これらの小説を読む上では全く何の役
にも立たないだろうが、それでも一応暇つぶしに「昭和世相流
行語辞典」(旺文社)なる本で、実際の1984年当時の世相
を反映するキーワードをチェックしてみると、主なところでは
「疑惑の銃弾」、「かい人21面相」、「エリマキトカゲ」、
「くれない族」、「パフォーマンス」、「ソープランド」、そ
れ以外では、「離婚雑誌」、「気くばりチョコ」、「ブレンド・
ガソリン」、「普通のおばさん」、「宅配売春」、「殺人ロボット」、
「マルキン、マルビ」、「ピーター・パン・シンドロー
ム」、「キャピキャピ」、「スキゾ・パラノ」、「なみだ漱石、
よだれ稲造」、「イッキイッキ」他、が挙げられていた。つい
でに「日本風俗業大全」(データハウス)という本を見ると、
キャバクラ第一号店「新宿キャッツ」が歌舞伎町にオープンし
たのも1984年なんだとか。
 ちなみに「ソープランド」は、「トルコ風呂」という名称の
変更を訴えたトルコ人学者の要求によって、この年に考案され
た「トルコ風呂」の新名称であるが、この当時、私の知り合い
に一人で進学塾をやっている、俗世間のことには全く疎い人物
がいて、私が「ソープランド」というタイトルの裏ビデオを貸
したところ、後で「あの『石鹸の島』という作品はタイトルと
内容が一致してないですね」と感想を述べたのに唖然とさせら
れたことが今でも忘れられない。この先生は何によらず、英語
のタイトルのものを見ると、反射的に日本語に言い換える癖が
あったのである。
 「スキゾ・パラノ」は当時、新進気鋭の学者として注目を浴
びていた浅田彰の著書「逃走論」から生まれた流行語であるが、
結局「逃走論」を読んでも「スキゾ・パラノ」という人間の分
類型はよく理解できなかった。
 この頃は中曽根内閣の時代でもあり、新左翼系のメディア
一斉に「中曽根の『戦後政治の総決算』策動を阻止せよ!」み
たいなスローガンを掲げていた。そして「日刊ゲンダイ」が中
曽根のことを「カートリッジ式五枚舌男」と呼んでいたことが
今でも記憶に残っている。



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2009年06月24日

近代国家とオナニー

 6月23日付「日刊ゲンダイ」に、明治期に広まったオナニ
ー害悪論のルーツが自由民権運動にあったことを論じた「実録
オナニー革命」と題するコラムが掲載されていた。連載第6回
目となっているが、残念ながら、これ以前のものは読んでいな
い。興味深いのは、根拠のない「手淫」の害悪を世に広めた民
権運動家の三宅虎太と、一貫して明治新政府側に立ち、体制か
ら離れなかった秋月種樹が、その「愛国」イデオロギーにおい
て深く通じていたという点である。

 「自由民権運動は決して民主主義的な運動ではなく、近代日
本に国家主義を植え付けた運動だった。征韓論を主張し下野し
た板垣退助が結成した日本初の政党は『愛国公党』。その命名
に彼らの思想が表れていた。
 彼らがナショナリズムの担い手だったからこそ、オナ禁思想
は生まれた。時の政府と結託し、精液は一滴も残さず国家に捧
げろという発想である。」(「実録オナニー革命」本文より)

 これを読んでふと想起したのは、今日出海(1984年没)
が、かつて「月刊新潮」誌に書いた「三木清における人間の研
究」(このタイトルは三木清の論文「パスカルにおける人間の
研究」をもじったもの)である。というのも、ここで今日出海
は、秀れた哲学者だった三木清のイメージを悪くするために、
三木が戦時中、熱心(?)なオナニストだったというエピソー
ドを最大限利用しようとしていたのだから。
 昭和17年に、三木清は軍の報道班員としてマニラに派遣さ
れたが、三木の身近にいた今日出海は、三木が少壮の哲学者と
して体面上曖昧宿に行けないのだろうと、すこし遊べとすすめ
たという。すると三木は、「いやおれは勉強の前たかぶると屋
上から曖昧宿を覗いて興いたれば手淫する、それから勉強にか
かる」と言ったので一座は唖然として、あとで塩まけと言った
者さえある、と今日出海は書いている。以下、本文より少し引
用してみよう。

「戦前は手淫を自涜と言って、してはならぬこととされていた。
だから三木の発言は正直ではあっても一座をあきれさせたので
ある。ショックを与えたのである。岩波書店会長小林勇は三木
の親友で、打って変わった理想的な三木像を書いている。同一
の人物が全く違って見えることがある例として私は並べて書い
たのである。」

 私が初めて「三木清における人間の研究」を読んだ時、まず
違和感を覚えたのは、今日出海が曖昧宿(売春宿)での買春行
為よりもオナニーの方が倫理的に劣った恥ずべき行為であると
看做している点であるが、これも「日刊ゲンダイ」の「実録オ
ナニー革命」が説く「オナニー害悪論自由民権運動起源説」と
考え合わせると、かなり根が深い問題であったという気がして
くる。
 哲学の分野であれほど秀でた学者でありながら、三木が京大
教授に任命されなかったのは、主任教授だった田辺元が三木清
のオナニスト的側面を嫌ったからという説もあるそうだが、も
しそうだとすれば、田辺もまた自由民権運動由来のオナ禁思想
にどっぷり漬かっていたと言わざるを得ないだろう。


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2009年06月21日

太宰治と森田童子

 一昨日(6月19日)は太宰治の命日(桜桃忌)だったけれども、今年は太宰治生誕100年に当たるため、東京・三鷹市の寺で行なわれた法要には例年を上回る数のファンが参加したとのこと。最近は太宰の作品を読み返すことも滅多になくなってしまったが、太宰の遺作「グッドバイ」と同じタイトルのアルバムでデビューした森田童子という女性シンガーの曲は何度聴いても飽きることがなく、今でも運転中には森田の曲をかけていることが少なくない。現役で歌っていた頃にも全くTVなどには顔を出さなかったため、表立って話題になるようなシンガーではなかったが、1993年、テレビドラマ「高校教師」の主題歌に森田の曲である「ぼくたちの失敗」が使われたことで一時は注目されたようだ。取り合えずここでは森田の名曲中の名曲「さよなら僕のともだち」を紹介しておこう。↓

http://www.youtube.com/watch?v=U-x_NVrwK1U 

 さて、太宰治といえばやはり何と言っても「人間失格」であるが、この作品の中に11世紀ペルシャの詩人オマル・ハイヤームの四行詩「ルバイヤット」が実に効果的に用いられている箇所があって、ここは何度も読み返しているうちにほとんど暗誦してしまったほどである。「京橋へ来て、こういうくだらない生活を既に一年ちかく続け、自分の漫画も、子供相手の雑誌だけでなく、駅売りの粗悪で卑猥(ひわい)な雑誌などにも載るようになり、自分は、上司幾太(情死、生きた)という、ふざけ切った匿名で、汚いはだかの絵など画き、それにたいていルバイヤットの詩句を插入(そうにゅう)しました。」という文章に続く、オマル・ハイヤーム「ルバイヤット」の詩句は以下の通り。

無駄な御祈りなんか止(よ)せったら
涙を誘うものなんか かなぐりすてろ
まア一杯いこう 好いことばかり思出して
よけいな心づかいなんか忘れっちまいな

不安や恐怖もて人を脅やかす奴輩(やから)は
自(みずから)の作りし大それた罪に怯(おび)え
死にしものの復讐(ふくしゅう)に備えんと
自(みずから)の頭にたえず計いを為(な)す

よべ 酒充ちて我ハートは喜びに充ち
けさ さめて只(ただ)に荒涼
いぶかし 一夜(ひとよ)さの中
様変りたる此(この)気分よ

祟(たた)りなんて思うこと止(や)めてくれ
遠くから響く太鼓のように
何がなしそいつは不安だ
屁(へ)ひったこと迄(まで)一々罪に勘定されたら助からんわい

正義は人生の指針たりとや?
さらば血に塗られたる戦場に
暗殺者の切尖(きっさき)に
何の正義か宿れるや?

いずこに指導原理ありや?
いかなる叡智(えいち)の光ありや?
美(うる)わしくも怖(おそろ)しきは浮世なれ
かよわき人の子は背負切れぬ荷をば負わされ

どうにもできない情慾の種子を植えつけられた許(ばか)りに
善だ悪だ罪だ罰だと呪(のろ)わるるばかり
どうにもできない只まごつくばかり
抑え摧(くだ)く力も意志も授けられぬ許りに

どこをどう彷徨(うろつき)まわってたんだい
ナニ批判 検討 再認識?
ヘッ 空(むな)しき夢を ありもしない幻を
エヘッ 酒を忘れたんで みんな虚仮(こけ)の思案さ

どうだ 此涯(はて)もない大空を御覧よ
この中にポッチリ浮んだ点じゃい
この地球が何んで自転するのか分るもんか
自転 公転 反転も勝手ですわい

至る処(ところ)に 至高の力を感じ
あらゆる国にあらゆる民族に
同一の人間性を発見する
我は異端者なりとかや

みんな聖経をよみ違えてんのよ
でなきゃ常識も智慧(ちえ)もないのよ
生身(いきみ)の喜びを禁じたり 酒を止めたり
いいわ ムスタッファ わたしそんなの 大嫌い



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2009年06月18日

悪趣味のパワー

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 「芸術の大いなる敵、それは良い趣味だ。」(マルセル・デュシャン)

 久しぶりに古書店に立ち寄ってみると、美術雑誌「芸術新潮」のバックナンバーがどっさりと置かれていた。一通りそれらの全てをチェックした結果、「特集・悪趣味のパワー・悪趣味から目をそむけるな!これこそ、次代の文化を生み出す原動力だ!!」と表紙に銘打たれた1993年6月号を購入。コンテンツの主要な部分をざっと書き出してみると、「古今東西 悪趣味アルバムー対談・今こそ悪趣味ルネサンス/山口昌男・中沢新一」、《悪趣味を解く6章》ー「悪趣味の光輝─糞に仏性のあるごとく/丹尾安典」、「ジェフ・クーンズ─愛はポルノを超える/伴田良輔」、「“悪魔の発明”が行きつく果て/飯沢耕太郎」、「東照宮・金シャチ・霊柩車/井上章一」、「トロンプルイユ、蝋人形─テクノロジーとしての悪趣味/荒俣宏」、「最後の悪趣味?アメリカ文化/堤雅久」といったところであるが、中でも井上章一氏による「日光東照宮」論は特に面白く読むことができた。氏はここで東照宮の過剰な装飾が持つ「きんぴか」イメージを俗悪、悪趣味の極致とする評価が、実は伊勢神宮の単純清浄をこそ理想とする明治新政府のイデオロギーによって作り上げられたものであるとしているが、その論の当否はさておくとして、私には東照宮のような文化財を「悪趣味」論という観点から捉えているところがなかなか斬新に思われたからである。重要なのは、エログロや血しぶきスプラッタだけが悪趣味のすべてではないということ。悪趣味とはもっと広く様々な形で文化の中に遍在しているものなのかも知れない。
 因に↓の写真は、大駱駝艦公演「雨月」(本誌より)。
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2009年06月14日

何をそんなに驚いておるのかね

 図書館で月刊誌「正論」7月号(総力特集・NHKよ、そんなに日本が憎いのか)を拾い読みしたのだが、潮匡人という評論家の書いた「続・NHKの暴走」という文章があまりにもトンチンカンなので思わずメモって(月刊誌の貸出しは次号が出るまで不可)しまった。
 まず氏は5月6日、NHK総合スペシャルで放送された、「SONGSスペシャル」という番組中の次のようなナレーションに驚いたという。

 「はるな愛さん、三十六歳。アラフォーの女性です。中学生の頃、凄絶ないじめに悩んでいたはるなさんに夢を与えてくれたのが、松田聖子さんでした」「女性として生きたい。聖子さんに憧れて決断しました」

 一体このナレーションのどこに驚くべき点があるのかはっきり説明もせず、さらに氏は次のように書く。(以下、引用)

 ー以上は、同番組固有の問題ではない。むしろNHK全局の姿勢を象徴している。その代表例が、教育テレビの番組「ハートをつなごう」であろう。同番組から生まれた「性のありようをもう一度考えてみるサイト」にも驚く。
 名づけて「LGBT新設サイトー虹色」。LGBTとは何か、NHK公式サイトは語る。
 「L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシャル、T=トランスジェンダー、日本語で言うと、順番に、女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、生まれたときに法律的/社会的に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人、となります」「いろんなセクシュアリティーのかたちや価値観が社会にはあります。境界線がなくて、少しずつ違っていく色、性ってそんなイメージかもしれない。だから『虹色』と名づけました」 
 驚くべきリベラル思想である。昨年、拙著でそう批判したが、NHKには届かなかったようだ(『やがて日本は世界で「80番目」の国に堕る』)。おそらく「はるな愛」さんは「性別にとらわれない」、NHKお気に入りの「虹色」タレントなのであろう。ー(引用、ここまで)

 これまた何がどう「驚くべき」リベラル思想なのかさっぱり理解できないのである(NHKもたぶん理解できなかっただろう)。氏は評論家になる前は航空自衛官だったそうであるが、以前、自衛隊員の知人に聞いた話では、自衛隊には男性同性愛者がことのほか多いんだとか。氏の論法でいけば、これを容認している自衛隊こそはまさしく「驚くべき」リベラル思想の巣窟ということになるはずだが、もしかしたら氏はそれに嫌気がさして自衛隊を退官したのであろうか。しかし、人生これほど驚いてばかりいたのではストレスが溜まる一方で寿命が縮まるのではないかと他人事ながら心配になってしまうが、たまにテレビでお見受けする限り、とても元気そうなので、実際のところは大して驚いていないのかも知れないが。
 ともあれ氏には、福島次郎著「三島由紀夫ー剣と寒紅」(平成13年/文藝春秋刊)に描かれた男性同性愛者たちについての感想を是非とも聞いてみたいものである。
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