
戦後のSM雑誌の先駆をなした「奇譚クラブ」という雑誌についてはこれまで何度か取り上げてきたが、大阪で発行されていた「奇譚クラブ」に対抗して、1954年に東京で名乗りを上げたのが「風俗草紙」というSM雑誌(当時はまだSM雑誌という呼称はなかったようであるが)であった。この「風俗草紙」も「奇譚クラブ」同様、小説と告白手記の二本立てで成り立っていたが、廃刊後の1970年に「アブノーマルSM小説集・風俗草紙」と銘打ってこの雑誌に掲載されていた短篇小説を作者別に集めた新書サイズのシリーズ本が日本文芸社より刊行された。私は昔、このシリーズの第一集として刊行された日夏由紀夫氏の「まにや地獄」という作品集を古本屋で購入して、なかなかの傑作揃いであることに感心した覚えがあったのだが、これもいつの間にか紛失してしまっていた。私は「ああ出来ることならもう一度『まにや地獄』と再会したい」と、そんな思いを常々抱いていたので、つい最近、ネット通販の古書店でこの本を見つけた時には欣喜雀躍、迷わず購入してしまったのである。 まずは表紙折り返し部分に書いてある八篇の作品のタイトルとその簡単な紹介文を以下に記しておこう。
「レスビアン牧場」=美しい未亡人に誘惑されて喘ぐ可憐な令嬢
「指圧師と貴婦人」=高貴な女性の肌に膝まずく男の奇妙な愉悦
「女装マニア日記」=孤独な青年が女装した時、人生は一変した
「苛まれる白鳥」=バレエ教習所に君臨する残忍で非情な暴君
「覗き旅館の秘密」=醜い旅館のおやじの人に語れぬ秘密とは?
「醜い家畜の快楽」=浴室の隅に飼われる愛玩動物の切ない愛情
「好色デザイナー」=婦人洋裁店をかき回す女性操縦術の天才!
「女狩り株式会社」=次々にOLを募集して情婦に教育する会社
さて、以上八篇の中から最高傑作を一つ選ぶとすれば、やはり何といっても「醜い家畜の快楽」という作品だろう。浴室の隅に飼われる愛玩動物というのは、女主人の美弥子夫人が未亡人のM夫人から譲り受けたエスという名の小人である。M夫人は、あるサーカス団からエスを買いとったといっていたが、その真偽は定かではない。M夫人は夫の遺産を守るために再婚せず、ひとりで夫の会社を経営していた。そのM夫人が、一年ほど外国旅行をすることになり、まさか連れていくわけにもいかないので、思い切ってエスを美弥子に譲ることにしたのであるが、エスを美弥子に渡す時のM夫人の台詞がなかなか味わい深い。(以下引用)
「私たち、体面ってものを重んじなければならないでしょう。世間体もあるし、プライドもあるし、それに守らなくちゃならない財産もあるだけに、うっかりしたことはできないわ。・・・・・だからどうしても、その裏で気ままなことのできるトイレみたいなところがいるわけよ。そりゃきたないっていえば、きたないかも知れないけど、そういうトイレやゴミ捨て場みたいなところがあるので、私たちは人前に出ると、すました顔がしていられるのよ。ね、そうでしょ。 エスはその点、人間といっても人格も何もない動物みたいなもんだし、何の権利も主張しないで、ただ忠実に用だけたして生きているから、これ以上便利なものはないのよ。 外へ出さなくったって、部屋のなかで飼っていればいいんだし、たべものだって私たちのたべのこしをやればそれですむの。口はきけるけど、こっちが話さなきゃそれですむし、どんな恥ずかしいところを見せたって平気だし、とても気楽よ。 どこかお手洗い所のすみにでもおいておけば・・・・・そういうところが一番エスは好きなんだから・・・・・だけど、アレにも我儘なところがあって、自分の仕える主人が美しい女性でなければいうことをきかないの。その点あなたなら、彼は何でもするわよ。 はじめはちょっと気味が悪いようだけど、慣れてしまったら、今度は離せなくなっちゃうわよ。・・・・・まア、だまされたと思って飼ってごらんなさい」
やはり「美女に飼われる」という妄想は今も昔も男性M小説には不可欠のテーマなのであろうか。
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For All Sports Lovers! SPORTS OHEN PROJECT 2008


小説と告白手記で構成されると言う事は、現在のSM誌との違いはグラビアくらいなんですね。
(やはりこの世界は偉大なるマンネリズムの中で存在しているんでしょうか)
「美女に飼われる」というのは「美女を責める」よりもずっと甘美な感じがします。と言う事は「S」よりも「M」の方が幸福である事なのかも知れません。
>偉大なるマンネリズム
確かにその通りだと思います。某SM雑誌の編集者がどこかに書いてましたが、マンネリズムもSM雑誌の読者にとっては大切な要素の一つなので、小説であれ、告白手記であれ、十年一日、同工異曲のものを載せ続けることこそ雑誌を長続きさせる秘訣であり、下手に斬新さを追求しようとすると読者離れを招いて必ず失敗するんだとか。このことは人間の性的妄想の世界が、時代の流れによって簡単に変化するものではないということを暗に示しているのではないでしょうか。
>「美女に飼われる」というのは「美女を責める」よりもずっと甘美
異議なし! さらに言えば「美女に飼われる」というのは「美女から責められる」よりもずっと甘美ではなかろうかというのが私の妄想であります。