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サブカル雑食手帳

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2009年06月28日

みんな何かにかぶれていた

 生誕100年ということで、マスメディアが挙って取り上げたのが効を奏したのか、若い人達の間ではちょっとした太宰ブームらしきものが起こっているらしい。時代は変われど、太宰の文学というのはいつまでも「悩める青春の文学」であり続けるということなのか。太宰ブームでふと気づいたのは、「〜にかぶれる」という言葉を最近あまり耳にしなくなったことである。試しに「かぶれ」を「実用国語辞典」(成美堂出版)で引いてみると、二つの意味があって、一つ目は「皮膚の炎症」、二つ目は「心情的に感化・影響を受けること」と書かれていた。ここで言う「〜にかぶれる」はもちろん後者の意味であるが、太宰文学のように、たとえ人生の一時期にはのめりこんでも、それが一生続くことなどまずあり得ないようなものにこそこの言葉は相応しいような気がするのである。しかし、最近では「太宰にかぶれる」という言い方はしなくなったようだ。一方、「〜にハマる」という言葉はよく耳にするが、「ハマる」と「かぶれる」ではかなりニュアンスが違うように思う。「ハマる」という言葉には、「かぶれる」という言葉に濃厚につきまとっていたヒロイックな自己陶酔の臭いが希薄だからである。
 
かつて吉本隆明は、三島由紀夫への追悼文(1970年11月25日に,三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地にて自決した直後に書かれたもので、現在は、ちくま文庫「追悼私記」の中に収録されている)の中で、次のように書いていた。 
 
「サルトルを研究すればサルトルにかぶれ、メルロオ=ポンティを研究すればメルロオ=ポンティにかぶれる。毛沢東を研究すれば、毛沢東にかぶれる。そしてもしかすると、天皇制を研究すれば天皇制にかぶれる。サドを研究すればサディズムにかぶれ、バタイユをよめば<死>と<エロス>のつながりとやらにかぶれる。これは<空間>的なかぶれである。 
 したがって<時間>的かぶれというのもある。古代を研究すれば古代主義にかぶれ、武士道を研究すれば<サムライ>にかぶれて、比喩でもなんでもなく<サムライ>気取りになる。これこそが日本の文化的悲喜劇である。
 ところで、人間的悲喜劇というのもある。肉体を鍛練すれば肉体主義にかぶれ、武器をもてあそべば武装主義にかぶれる。そのあげく<自衛隊>などに肯定、否定にかかわらず過剰な意味をつける。なるほどそれは巨きな武装力をもち、いつでも<命令一下>武器を爆発してわたしたちをも、仮装敵国をも殺りくできる存在である。しかし、武器をもてあそび、それに至上の価値を与える者ほど<人形>にすぎない、ということを忘れるべきではない。それらは<命令一下>どんなもったいないほど税金をしぼってつくった武器でも、屑鉄のように捨ててしまえる存在である。」
 
 失礼ながら、最近の吉本隆明からは想像もつかないほど冴え切った文章だが、極言すれば、吉本隆明にこんな文章を書かせてしまうほどに、この当時は「みんな何かにかぶれていた」時代だったということなのかも知れない。

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posted by 下等遊民 at 08:13| Comment(0) | TrackBack(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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