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サブカル雑食手帳

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2006年02月15日

国賊作家セリーヌの戦争論

 「<善>なる戦争なんてない。善は戦わないこと、殺し合わ
ない途を見つけることだけです。だから、どんな戦争に対して
も、絶対的なノンnonしかない。(中略)『夜の果てへの旅』
の主人公バルダミュもノンを宣言した。よく見えるがゆえに、
見えない人々による汚名を引き受けた。卑怯者という汚名はこ
こでは『聖性』を帯びる。精神レベルでは、みんな社会のはみ
出し者、浮浪者になろう。そこまで覚悟すれば戦争は起こらな
い。そういうふうに、セリーヌの強い精神的影響を受けました。」
                 (「卑怯者の天国」より)

 これはフランスの異端作家ルイ・フェルディナン・セリーヌ
の長篇小説「夜の果てへの旅」の翻訳を手がけた故・生田耕作
氏の言葉であるが、確かにこの作品には第一次大戦で重傷を負
うという実体験に根ざした、セリーヌの戦争への嫌悪感が全編
至るところにぶちまけられている。例えば第一次大戦中のフラ
ンスを背景とした前編には戦場から抜け出すために精神疾患を
装い部隊内で缶詰泥棒を繰り返すプランカールという中学教師
が登場するが、この教師が軍の病院で主人公のバルダミュを相
手に長々と披瀝した彼の戦争観こそはまさしく作者セリーヌの
戦争観そのものと見ていいだろう。少し長くなるが彼の言葉に
はセリーヌの国家観や戦争観が忌憚なく盛り込まれていると思
われるのでここにそのまま引用しておこう。

「さよう、自分では巧妙に立ちまわっているつもりだったがね、
なんということだ! この手を使って、戦場から抜け出す魂
胆だった、恥をさらそうが、とにかく命だけは保って、終戦ま
で持ちこたえ、そしてもどって行くつもりだった、さんざん溺
れた果てに、命からがら海の表面に浮かび上がるみたいに・・
・・・もう少しでうまくいったんだが・・・・・ところが戦争
があんまり長く続きすぎたのさ・・・・戦争が長びきだすと、
祖国に嫌われるほどいやらしい奴なんて、ありえんことにな
る。どんな御供物だろうと、そいつがどこから来ようと、どん
な肉だろうと、見境なしに受け入れだしたというわけだ、祖国
の野郎は。殉教者の選択におそろしく寛大になったものさ! 
今じゃもう、武器を手にする資格のない兵隊なんてものは考え
られないね、ましてや武器のもとに武器によってくたばる資格
のない兵隊なんて・・・・・あきれたもんさ、わしまで英雄に
したてようてんだから!・・・・皆殺しの病がよっぽど重症に
なったものにちがいないね、缶詰泥棒を赦しはじめるなんて!
 いや、水に流しはじめるなんて! もっとも、わしたちは常
日頃から、とほうもない大泥棒を讃めたたえることには慣れと
るがね、わしたちだけじゃない、世界じゅうが、その連中の金
持ぶりを崇めたてまつっているありさまさ、すこし注意すれば、
その連中の毎日の暮らしが犯罪の連続であることぐらい見す
かせそうなものだがね、ところがその連中は栄誉と、尊敬と、
権力を享受し、そいつらの大罪は法律によって承認されとるの
だ、それに引きかえ、昔からの歴史を調べてみるのにーわしは
歴史でめしを食っとるのだーはっきりわかっておることは、さ
さいな盗み、とりわけ、パンやハムやチーズとかいった、しみ
ったれた食い物の盗みは、それを行なった人間にかならず由々
しき汚名を招くことになる、社会の冷酷な迫害、厳重な懲罰、
避けがたい不名誉、取り返しのつかぬ恥辱。そしてそれには二
つの理由が考えられるね、まず第一の理由は、そのような罪を
犯す人間は、一般に貧乏人で、そしてその境遇はそれ自体が最
大の恥辱を意味しているからだ、いま一つの理由は、その男の
行為は社会に対していわば暗黙の非難を含むことになるからさ。
貧乏人の盗みは、個人の悪意ある奪回行為というわけだ、わか
るかね・・・・・結局どういうことになるね? そんなわけ
で、こそ泥に対する弾圧は、いいかね、どの国でも、極端な厳
格さで行なわれているのだ、それはただ社会を守るためだけじ
ゃない、それ以上にすべての不幸な連中に対する厳重な勧告の
手段として行なわれているのだ、自分の地位と身分におとなし
くちぢこまって、この先何千何百年いや永久に、貧困と空腹で
くたばることに甘んじておれというわけさ・・・・・それでも
今日までのところは、フランスではこそ泥たちにはまだ一つの
利点が残されていた、愛国の武器を取る名誉を剥奪されるとい
う利点がね。ところが明日からは、状勢は一変しそうだ、この
わしが、泥棒のわしが、明日から、もう一度原隊復帰さ・・・
・・そういう命令さ。お偉方が、わしの《出来心》と名づけた
ものを抹殺することに決めたのだ。そしてそれは、いいかね、
奴らが同時にわしの《家族の名誉》と命名したものを考慮した
うえで行なわれるのだ。なんとも思いやり深いことさ! 君に
おうかがいするがね、敵のものとも味方のものとも見分けがつ
かん鉄砲玉で蜂の巣になりに出かけるのは、いったいわしの家
族だとでもいうのかね・・・・・わしだけさ、そうだろう? 
それにわしが死んだときには、家族の名誉がわしを甦らせてく
れるとでもいうのかね? いいかね、わしには、今から目に見
えるんだ、わしの家族の姿がね、戦争が終わっちまったあとの
・・・・・どんなもんでもいつかは終わるときがくるよ・・・
・・そのとき楽しそうにはねまわっている家族の姿がね、ふた
たびめぐりきた夏の芝生の上で、わしには今から目に見えるん
だ、或る晴れた日曜日・・・・・ところがその三尺下では、こ
のパパさんが、蛆虫でどろどろにとけ、祭日の大きな糞よりも
まだ臭って、裏切られたでっかい図体ごと、この世のものとも
思えん姿で腐っていくのさ・・・・・名も知らんどん百姓の畑
の肥やしになること、それが真の兵士の真の行く末というやつ
さ! ああ! 君! 世の中の仕組みなんてまったく人をこば
かにしたもんさ!あんたはまだ若い。今のうちにしっかり肝に
銘じておきたまえ! わしの言うことをよく聞くんだ、そして、
そいつの持つ意味の重大さをようっく頭にたたきこんだうえ
で、今後はそいつを絶対に通用させんことだね、わしらの《社
会》の殺人的偽善のすべてを飾り立てている麗々しい旗印、つ
まり《哀れな連中の運命と境遇への同情》という旗印さ・・・
・・君たちお人好し連中にわしは言っておきたいのだ、打ちの
めされ、しぼり取られ、年じゅう汗水たらした、人生の腰抜け
どもにね、君たちにわしは警告したいのだ、世間のお偉方が君
たちを愛しはじめたときは、そのときは連中は君らを戦場のソ
ーセージに変えようとねらいをつけていると思えば間違いない
ね・・・・・そしてこいつがそのときの旗印さ・・・・・いつ
でもきまっている。最初はまず愛情というやつからだ。 ルイ
14世は、その点まだしも、善良な民衆などまるきり問題にし
なかったね。ルイ15世にしても、同じことだ。民衆なんて尻
の穴をよごすもの程度に考えていた。なるほどその時代だって
暮らしは楽じゃなかった。貧乏人はいつの世だってよい暮らし
のできたためしはないさ、だけど、まだ民衆をぶち殺すことに
現代の暴君たちみたいにやっきになったりはしなかったね。下
っぱが休息できるのは、いいかね、お偉方たちに軽蔑されてい
るあいだくらいのものさ。欲得とサディズムをとおして以外、
民衆のことは考えられん連中ときているんだから・・・・・啓
蒙哲学者と言われる奴らだよ、このこともついでによく覚えて
おきたまえ、善良な民衆に最初に歴史を語りだした奴らは、そ
いつらさ・・・・・教理問答しか知らなかった民衆に! 奴ら
はとりかかったのだ、ご自分でおっしゃるところじゃ! 民衆
教育の大事業にさ・・・・・ああ! 奴らは、民衆に啓示する
真理なるものをいっぱいお持ちあそばしていたというわけさ!
 それもすばらしいやつを! 生きのいい! はでなやつを!
 目もくらむばかりのやつをね! 善良な民衆は叫びだしたも
のさ、まさしくこれだ! 待ちに待ったのは! こいつのため
にみんなで命を投げ出そう! いつでも死ぬことしか願わんも
のさ、民衆って奴は! そういうものさ。『ディドロ万歳!』
みんながわめき立てた、さらに、『でかした、ヴォルテール!』
たいした哲学者もあったものさ! ついでに勝利をお膳立て
したカルノー(フランスの政治家。1801〜88)も万歳!
 だれも彼も万歳! ともかく善良な民衆を無知と事大主義の
中に見殺しにしない感心な連中だ! 自由への道を教えてくれ
るのだ、この連中は! 解放してくれるのだ! それにはたい
して時間はかからなかった。まず手はじめに一人残らず新聞を
読めるように! それが救いへの道だ! なにをぐずぐずしと
る! 急げ! 明き盲の追放だ! もうそんなものに用はない!
必要なのは国民皆兵だ! 投票し! 字が読め! そして戦争
する奴らだ! 出陣する奴! 接吻を送る奴だ! この促成栽
培のおかげで、たちまち民衆は成長をとげてしまった。そうな
ると解放への熱狂をこんどは何かに振り向けなくちゃならん。
ダントンの雄弁はあだや酔狂じゃなかったわけだ。いまも
耳に残る、泣きどころを心得た熱弁で、奴はたちまち民衆を動
員してしまった! それが解放された気違い部隊の初陣という
わけさ! 選挙権とひきかえに、国旗をかつがされ、風穴をあ
けられに、デュムリイエ(フランスの軍人。1739〜182
3)の野郎にフランドルの野原へ引っぱり出された阿呆連のは
しりさ。デュムリイエご本尊は、珍しさ半分、この理想主義の
遊戯におくればせながら参加してみたものの、結局は金に目が
くらんで逃げだしてしまった。こいつはフランス国最後の傭兵
というわけさ。ただ働きの兵隊、そっちのほうは新発見だった
・・・・・まったく前代未聞のしろものだったので、ゲーテで
さえ、さすがのゲーテでさえ、ヴァルミイに到着したとたんに
目を見はったものさ。祖国愛という前代未聞のこしらえ物を防
衛する目的で、進んでプロシア王にはらわたをえぐられにやっ
て来た、情熱に燃える、ぼろをまとった一団を目のあたりにし
て、ゲーテは、まだまだ学ぶべきことがたくさんあるという感
慨をいだいたものだ。『今日から』と、さすが天才らしく彼は
叫んでいる。『新時代が始まる』とね。ほんとの話さ! それ
からは、この方式が便利しごくとわかって、英雄の大量生産が
おっ始まった、そしてますます安上がりになっていった、この
方式の完成のおかげでね。みんなが重宝したわけだ。ビスマル
ク、両ナポレオン、バレス(20世紀初頭のフランスの文学者・
政治家。右翼的傾向を持つ)、女騎兵エルザ(ピエール・マッ
コルランの同名の小説の女主人公。ロシア革命の女闘士)。
軍国の信仰がまたたくまに、神の国の信仰に取って代わってし
まった、いまじゃ神の国なんて、宗教改革でぺしゃんこになり、
とっくの昔に司教の貯金箱程度にちぢこまっちまった、古ぼけ
た雲きれみたいなものさ。以前は狂信が流行りだすと、『キリ
スト万歳! 異端者を火あぶりにしろ!』ときたものさ、だけ
ど結局、異端者といったって数は知れているし、それに自分か
ら進んでそうなった連中だった・・・・・ところが、今じゃ、
巨大な群衆が口々に叫び立てる始末さ。『死刑にしろ、腰抜け
どもを! 弱虫どもを! 屁理屈屋どもを! 全員、右へなら
え!』その手で使命感を呼びさまそうというわけだ。切った
はったはいやだ、人を殺めるのはいやだという連中は、汚らわ
しい平和主義者の連中は、ひっとらえ、磔にしろ! 八つ裂き
にしろ、思いきり痛めつけろ! 思い知らせるために、まずは
らわたをえぐり取れ、次には目玉を、それからやつらの汚れき
った命を何年かちぢめるのだ! 十把一からげに、片っぱしか
らくたばらせ、シュークリームみたいにおしつぶし、生き血を
しぼり取り、硫酸をぶっかけ、焼き殺せ。なにもかも、祖国が
さらに愛され、さらに楽しく、さらに住み心地よくなるためだ!
 こんな見上げた事柄を理解しようとしない汚らわしい連中
が祖国にいるときは、そいつもほかの奴らといっしょに墓の中
に眠らせるまでだ、もちろん、まともな眠り方じゃない、墓場
のすみっこで、理想のない憶病者という不名誉な墓碑名の下で、
なぜなら、墓場のど真ん中に落札で建てられた共同墓碑の陰に、
やすらかにお眠りあそばすごりっぱな死者たちのお仲間入りす
る名誉ある特権を、そいつらは、そういう汚らわしい連中は失っ
てしまったからだ。それに、日曜ごとに知事の官邸へ小便こき
にやってきて、昼飯のあと墓の群れに向かって金切り声をふり
しぼる大臣閣下のこだまのおこぼれをちょうだいする権利も、
失ってしまったからさ・・・・・」                                                    (生田耕作訳「夜の果てへの旅・上巻」より)

 この作品が誕生して今年で74年目になるが、世界の動きを
見る限り、この作品に込められたセリーヌのメッセージはこれ
からもまだまだ有効性を持ち続けるのではないだろうか。

   






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posted by 下等遊民 at 03:11| Comment(1) | TrackBack(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トラックバックありがとうございます。
ところで、私は戦うことを善とも悪とも思いません。
「戦う」にしても「戦わない」にしても、
何かを善とか悪だと思うことから
無意味な殺戮が生まれるのであって、
逆説的に「戦い」に善悪つけない方が必要な戦いだけ起きて、
殺戮は起きない気がするんですよね。

って、こんな平和なご時世にこんなこと考えても
意味ないですかね。
それにしても、すごい本読んではりますね。
私も本を読まなければ…(汗)
Posted by ハモン at 2006年02月28日 01:27
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