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サブカル雑食手帳

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2006年02月22日

「夜の果てへの旅」における黒いユーモア

 前回取り上げたセリーヌの「夜の果てへの旅」は革命家トロ
ツキーの次の言葉、すなわち「『夜の果てへの旅』はペシミズ
ムの書、人生を前にしての恐怖と、そして反逆よりもむしろ人
生への嫌悪によって口述された書物である。積極的反逆は希望
と結びつく、セリーヌの書物のなかには希望がない・・・・・
セリーヌは革命家ではない、また革命家たらんとする気持もな
い。彼は社会を改造しようとは心掛けない、そんなものは彼の
目にはまったくの幻想である。彼はただ自分をおびやかし迫害
する一切のものにまつわる威信を剥ぎとりたいと願うだけだ。
人生を前にして覚える恐怖の自覚を軽減するために、この貧民
窟の医師は新しい文体的手法に頼らねばならなかった。彼は小
説の革命家として現れた・・・・。」(「小説家と政治家」)
といったセリーヌ評に象徴されるように一般に「ペシミスチッ
ク」「希望がない」「暗い」というイメージで捉えられがちで
あるが、私見によればこの作品の最大の魅力はジョナサン・ス
ウィフトの「ガリヴァ旅行記」や「淑女の化粧室」(この作品
は日本語訳が出ておらず中野好夫著「スウィフト考」を参照)
やアンブローズ・ビアスの「悪魔の辞典」などと同質のシニカ
ルで斜に構えた所謂「黒いユーモア」がふんだんに盛り込まれ
ている点である。クソ真面目な絶望や悲愴感はセリーヌの作品
とは無縁であり、全編、諧謔とアイロニーに満ちたアフォリズ
ム風の言葉で埋め尽くされているといっても過言ではない。で、
今回はそんな言葉のいくつかを生田耕作訳「夜の果てへの旅」
(中公文庫)の中から拾い出してみたい。

 「肉欲に童貞があるように<恐怖>にも童貞があるもんだ。
クリシイ広場をあとにしたとき、どうしてこの恐怖が想像でき
たろう? 戦争のさなかに実際に飛び込むまでは、人間どもの
勇敢で不精で汚れた根性の中にひそんだものを、だれが見抜く
ことができようか?」上巻P17

 「魂というものは、肉体がぴんぴんしているうちはその装飾
にもなれば快楽にもなる、ところがいったん肉体が病気にかか
るかそれとも情勢険悪となれば、魂は肉体からおさらばしたい
気持ちにかられるものだ。」上巻P74

「愛欲を断念するのは、生命を断念するよりもむずかしいもの
だ。この世では人間は殺戮と愛欲に時を過ごすのだ、しかもそ
れを同時に行なうわけだ。『おまえが憎い! おまえが好きだ!』
自分を守り、自分を養い、万難を排し、必死で、自分の生命を
次の世紀の二足獣に譲り渡す、まるで自分を持続することがそ
れほど楽しいことであるみたいに、そうすることで、結局、自
分を永遠化できるみたいに。やりたい気持ちというのは辛抱で
きんものだ、かゆみと同じで。」上巻P102

 「人間が底意地悪くなるとすれば、おそらく考えられる理由
は一つだけ、苦労を味わったがためだ。ところで、苦労が終わ
った瞬間から、その人間が善良になるまでのあいだには長い時
間が必要なものだ。」上巻P104

 「考えてみれば、どうして美の中と同様、醜さの中にも芸術
が存在してはいけないのか? そっちのほうはまだ未開拓の分
野、ただそれだけのことだ。」上巻P110

 「勇壮な詩というものは、戦場に行かない連中を、ましてや
戦争によってぼろ儲けしている連中を、手もなく感激させるも
のだ。当然の話だ。」上巻P113

 「この世で貧乏人に許される死に方は二つきりしかない、平
時に同胞の完全な冷淡さによってくたばるか、さもなくば戦争
の到来とともに同じ連中の殺人熱によってくたばるかだ。」
上巻P116

「女性は特に見せ物を求めていた、彼女たちは、売女(ばい
た)どもは、おどおどした素人に対しては情け容赦ないものだ。
 戦争は、どうやら、子宮にくるものらしい、女たちは英雄を
要求していた、だから英雄とおよそ縁遠い人間は、ありのまま
の姿をさらけだすか、それとも、この上なく屈辱的な運命を耐
え忍ぶか、二つに一つだった。」上巻P130

 「武勇談は、猥談みたいなものだ、どこの国のどの軍人にも、
いつでもお気に召すものだ。軍人たると否とを問わず、男を相
手に、一種の和平を手に入れるために必要なことは、要するに、
いつの場合でも、自分をひけらかし、愚かしい自慢話にふける
機会を連中に与えてやることだ。賢明な虚栄心なんてものはな
い。こいつは本能の一種だ。」上巻P173




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posted by 下等遊民 at 20:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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