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サブカル雑食手帳

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2010年03月12日

反戦映画「キャタピラー」と「芋虫」

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 「彼女の心の奥の奥には、もっと違った、もっと恐ろしい考えが存在していなかったであろうか。彼女は、彼女の夫をほんとうの生きた屍(しかばね)にしてしまいたかったのではないか。完全な肉ゴマに化してしまいたかったのではないか。そして、彼女の飽くなき残虐性を、真底から満足させたかったのではないか。不具者の全身のうちで、眼だけがわずかに人間のおもかげをとどめていた。それが残っていては、何かしら完全でないような気がしたのだ。ほんとうの彼女の肉ゴマではないような気がしたのだ。」(東京創元社刊「日本探偵小説全集2・江戸川乱歩集」所収「芋虫」より)

 「ぼくは両脚両腕がないのでできませんが、神聖な、古びた儀式を行って下さい。ぼくが歌うことのできないハレルヤを合唱して下さい。みんなそろってハレルヤをぼくのために、声を張り上げ、大声で歌って下さい。なぜならぼくは真実を知っているし、君たちは知らないからです。きさまらは阿呆だ。きさまらは阿呆で、間抜けで、とんまなのだ・・・・・」(ドルトン・トランボ・著 信太英男・訳 角川文庫「ジョニーは戦場へ行った」より)


 第60回ベルリン国際映画祭で、若松孝二監督の反戦映画「キャタピラー」に主演した寺島しのぶが、最優秀女優賞(銀熊賞)を獲得したことで、この映画の中で描かれた、出生先で四肢と聴覚、声を失った軍人とその妻との壮絶なセックスシーンがメディアの注目を集めている。上映前に記者会見した若松監督は、「伝えたかったのは、戦争は人殺しであり、正義の戦争などないということ。日本に限らずどの国でもそうだ」と作品の意図を説明。「過去をすぐ忘れる日本人に対する怒り」が製作の動機になったという。「週刊ポスト」3月12日号によると、この作品の下敷きになっているのは、江戸川乱歩の短編小説「芋虫」と、71年のアメリカ映画「ジョニーは戦場へ行った」であるということだが、どちらも戦争で四肢と聴覚、声を失った帰還兵が主人公であるとはいえ、「芋虫」は元々、反戦小説としてでなく、SМ的猟奇小説として書かれた作品であり、正真正銘筋金入りの反戦小説である「ジョニーは戦場へ行った」とはかなり趣きの異なる作品である。「芋虫」は、昭和4年(1929年)に雑誌「新青年」に掲載された作品であるが、当時、この作品を反戦小説として持ち上げた左翼勢力に対しても、また同じ理由で敵視した右翼勢力に対しても、乱歩が一貫して冷ややかな姿勢を取り続けたことは、乱歩自身が書いた「芋虫」の解説の中の次のような文章にはっきりと示されている。

 「私は左翼に認められたときも喜ばなかったように、右翼にきらわれたときも別に無理とは思わなかった。夢を語る私の性格は、現実世界からどんな取り扱いを受けようとも、一向痛痒を感じないのである。」

 「芋虫」と「ジョニーは戦場へ行った」、趣向の全く異なるこの二つの作品が、反戦映画「キャタピラー」のヒットにより、ともに注目されることを期待している。

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posted by 下等遊民 at 02:12| Comment(4) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
乱歩とD・トランドが元ネタ・・・
「ジョニーは戦場へ行った」は個人的に忘れられない作品の一本ですが、乱歩の変態的な要素を加えるあたりが、若松孝ニ監督の真骨頂でしょうかね〜。
もっとも、D・トランボ自身も「赤狩り」で有罪となり、脚本家としての地位を失いながら、1950年代には別名で仕事を続けるという不遇な時代を送っています。

>「芋虫」と「ジョニーは戦場へ行った」、趣向の全く異なるこの二つの作品が、反戦映画「キャタピラー」のヒットにより、ともに注目されることを期待している。

全く同感です。
Posted by wakuwaku1776 at 2010年03月12日 23:21
 >wakuwaku1776様

 >乱歩の変態的な要素を加えるあたりが、若松孝ニ監督の真骨頂でしょうかね〜。

 極言すれば、「芋虫」は乱歩が男性マゾヒストの妄想を満たすために書いたと言える程、SМ的要素に満ちた作品ですが、これが書かれた当時はやはり「ジョニーは戦場へ行った」と同様、反戦小説として当局から睨まれたみたいですね。ただ若松監督がこの作品に目をつけたということは、「キャタピラー」という映画を凡庸で偽善的な反戦映画にしなかったという点で大成功だったと言えるかも知れません。戦地から負傷して帰還してきた夫をただかいがいしく世話するだけの妻という設定だったら単なる軍国美談なわけで・・・・・。ところでこの映画の影響からか、昨年、丸尾末広による「芋虫」のコミック本が出たようなんでこれは是非とも入手したいと思っています。

 >D・トランボ自身も「赤狩り」で有罪となり、脚本家としての地位を失いながら、1950年代には別名で仕事を続けるという不遇な時代を送っています。

 この作品が映画化されたのが、1971年というところが実に時代を象徴していますよね。
 
Posted by 下等遊民 at 2010年03月13日 01:38
いつもTBありがとうございます。

「黒い報告書2」の方にTBしていただいてたの
ですが、
丸尾版「芋虫」の方の感想を書いていたので、
そちらにTB返ししました。

あと、映画ブログの方に「ジョニーは戦場へ行った」の感想を書いていたので、
そちらもTBさせていただきました。

私もこの「キャタピラー」の映画のことを
知った時、この二つの異なった作品が頭を
よぎりました。

どんな風に映像化されるのか、とても興味深いです。

Posted by ユカリーヌ at 2010年03月13日 04:07
 >ユカリーヌ様

 >いつもTBありがとうございます。

 こちらこそコメント抜きのTBばかりで恐縮です。

 >丸尾版「芋虫」の方の感想

 それがせっかくTBして頂いたにもかかわらず、なぜかTBが通っていないんです(お手数ですが再度送ってみて頂けないでしょうか)。エントリーの方は今、貴ブログのブログ内検索を使って読ませてもらったのですが、やっぱこの本は購入するしかないって感じですね(またまた先を越されてしまった!)。

 >どんな風に映像化されるのか、とても興味深いです。

 猟奇的なエロスも反戦思想も若松監督が長年追求してきたテーマなだけに封切りが楽しみです。


 

 

Posted by 下等遊民 at 2010年03月13日 19:06
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映画「キャタピラー 」自分の意志など求められない芋虫が這いまわる
Excerpt: 「キャタピラー 」★★★☆ 寺島しのぶ、大西信満、吉澤健、粕谷佳五、増田恵美、河原さぶ 出演 若松孝二 監督、84分、2010年8月15日公開、2010,日本,若松プロダクション、スコーレ株式会社 (..
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Tracked: 2010-09-01 21:32
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