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サブカル雑食手帳

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2006年06月15日

プロレタリア文学と下ネタ

 文学界における治安維持法の犠牲者の代表格として真っ先に
名前が浮ぶのはやはり「蟹工船」や「党生活者」といったプロ
レタリア文学の傑作で知られる小林多喜二である。彼は193
3年に特高警察に逮捕され、その日のうちに野蛮な拷問によっ
て虐殺された。(その拷問の凄まじさについては、Hugo Strikes
Back! http://hugo-sb.way-nifty.com/hugo_sb/2005/01/post_61.html
に詳細な記述あり) 享年29歳というから前回取り上げた鶴彬
と同じ年で世を去ったことになる。
 この小林多喜二も含めて、どうもプロレタリア文学というと
一般に「教条的」「シリアス」「政治主義的」といったイメー
ジが濃厚に付きまとい、今や最も人気のない文学ジャンルにな
ってしまったのではないだろうか。(もしかしたら共産党員で
さえ今時プロレタリア文学など見向きもしないというのが実状
かも知れない)
 荒俣宏氏の「プロレタリア文学はものすごい」という本はそ
んな世間一般の常識を一発で吹き飛ばしてくれるという意味で
まさに快著というに相応しい。
 荒俣氏はプロレタリア文学の世界に横溢する「ホラー・笑い
・エロス」の要素に注目し、豊穣な作品群の中から専らそうし
たサブカル的なパーツだけをかき集めてきてくれるのだ。
 たとえば小林多喜二の「党生活者」について荒俣氏は次のよ
うに絶賛(?)する。

「たとえば『党生活者』には、工場で労働者を共産党の下に
組織化するオルグ活動にいどむ女性が一人、登場する。伊藤ヨ
シというハリキリ娘である。何回か警察に捕まってもいる。あ
るとき伊藤の母親がお湯屋で『始めて自分の娘の裸の姿を見て、
そこへへナヘナと坐ってしまった』。伊藤の体は度重なる拷問
のため青黒いアザだらけになっていたからである。(中略)
 おまけに、彼女は工員に配るためのビラを、ぴっちりしたズ
ロースの中に押しこんで出勤する。便所へはいって、ズロース
からビラを取りだし、それを工員たちに配るのである。だから
警察にも目をつけられ、ズロースまで脱ぎとられてまっ裸にさ
れ、竹刀の先でこづき回されたことも、二度ほどある。
 で、こういう描写を読むと、凡俗なるわたしたちは不謹慎に
も、スプラッターホラーの悲愴美を売りものにする作家には絶
対に書けないギャグを、ふと思い浮かべてしまう。
 どんなギャグかは、あらためて書くまでもないだろう。
 そのビラを受け取った工員が、紙の表面をクンクン嗅いで、
『なんか、いい匂いがするじゃねえか』とウットリする・・・、
 といった類の、卑猥なギャグをである。
 では、ホラー作家を捨てた私小説作家、小林多喜二は、わた
したち凡俗の徒が連想するギャグを『党生活者』の中で書いた
だろうか?
 うれしいことに、多喜二は書いてくれているのである!

 須山は躁(はしゃ)いで、何時(いつ)もの茶目を出した。
 「あのビラ少し匂いがしていたぞ!」
 と、伊藤にそんなことを云った。私は、「こら!」と云って、
須山の肩をつかんで、笑った。」

 荒俣氏は自分の期待した通りのギャグが登場したことが余程
嬉しかったと見え、「筆者がその当時、多喜二の読者であった
なら、『蟹工船』ではなく『党生活者』のほうに惚れこんで、
共産党系の文化労働に参加したかもしれない。」とまで書いて
いるほどである。まあ確かに弾圧の嵐の中で命がけで書いた作
品にこんなふざけたギャグを取り入れる余裕がよくあったもの
だと感心する。
 因みに「党生活者」は蔵原惟人氏によれば、「当時のプロレ
タリア文学の最高水準を示す作品」(新潮文庫版解説)という
ことである。
 膨大な資料の山に分け入り、そこからエロ・グロ・ナンセン
スなネタ(要するに下ネタ)だけを拾い集めてくるという作業
は、かつて平凡社の資料室に居候していたという経歴を持つ博
覧強記の荒俣氏にして初めてなし得たことであり、そうしたア
プローチの是非はともかくとして、このジャンルの敷居を多少
なりとも低くしてくれた功績はやはり大きいと言わなければな
らない。

 (追記)月刊誌「群像」7月号掲載の雨宮処凛さんの映画レ
ビュー「プレカリアートと靖国」を読んで、最近では「プロレ
タリアート」に代って、「不安定な」(英:precarious 伊:
precario)とプロレタリアートとを語呂合わせした「プレカリ
アート」という用語が使用されていることを知った。非正規雇
用という形でしか職を獲得できない世代・層を指す言葉らしい
が、これからは新しい「プレカリアート文学」の誕生を期待し
たい。




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posted by 下等遊民 at 21:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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