人気blogランキングへ

サブカル雑食手帳

メールはこちらへ

2006年12月29日

高邁(?)だった「世界秘密文学刊行趣意」

先日、「世界秘密文学選書」なる珍妙なタイトルのシリーズ本
(新書版 全15巻)のセットをヤフオクで落札した。遥か昔、
ジジババがひっそりと営んでいるような古本屋の怪しげなコー
ナーでよく目にしたことがあり、何冊かは読んだ覚えもあった
が、現在は手許に一冊も残っていなかった。各巻のタイトルは
(1)秘密教師(2)このまま眠りたいの(3)愛の海上教育
(4)パリーの娼婦(5)私はオンリーなの(6)若いアダム
(7)欲望の充足(8)天国と地獄と娼婦(9)巨大なベッド
(10)裸のランチ(11)パリーの小部屋(12)放蕩殿下
物語(13)快楽主義者の手記(14)情怨のサロメ(15)
私と遊んでよ、となっていて、この中の何点かは後にしっかり
した訳本が出ている。特にビート派作家ウィリアム・バロウズ
の「裸のランチ」や同じビート派作家アレグザンダー・トロッ
キの「若いアダム」などは近年、映画化されたことで注目を浴
びた。全巻とも訳者が清水正ニ郎氏(後に直木賞作家となった
故・胡桃沢耕史氏と同一人物であるが、この選書が出た頃はエ
ロ作家として勇名を馳せていた)となっているところはいかに
も胡散臭いが、表紙カバー裏に記されている清水氏の略歴は、
氏の人となりを簡潔に表していて面白いので以下に書き写して
おこう。
 
 「幼年より野菜物を全く喰えぬ体質のため、通常の社会生活
のテンポに合わず、富国健民の戦前、戦中にかけて、迫害の中
に生き続けてきた。
 小学校・中学校を東京で終えたが、担当教師には常に暴力で
脅やかされ、団体生活を甚だしく嫌う性質が生じた。現在でも、
ラジオ体操の音楽や、人を命令する号令など、人間の行動を規
正する音を聞くと、とたんに身内に怒りが貫きわたる。徹底し
た自由主義者である。」

 さて、この選書、装丁といい、巻頭のヌードグラビアといい、
何ともチープでいかがわしい匂いを漂わせているのであるが、
にも拘らず、表紙カバーの折り返し部分を見ると、そこには次
のごときまことに高邁(?)なる刊行趣意が記されているので
あった。 

 (世界秘密文学刊行趣意)
 文学は、本来、独往すべきものである。が、人間生活の場に、
政治があり、法律がある場合、時の権力者の志向によって、そ
の発表は、数々の制限を受けた。世界の各地に、名作と称せら
れる作品は多い。しかし、かつて思想上の立場より翻訳を許さ
れないものが多かった。戦後の憲法は、思想の自由を保証し、
憲兵と特高が、本棚を捜索することは、まず表面上は、姿を消
した。しかし、戦前、戦後を通じて、只一つ、許されない出版
が存在する。これは、性に関する問題を、あからさまに表現し
た出版である。如何なる理由に於て、検閲にひとしき暴挙を以っ
て、この弾圧をするのか解せないが、将来はさておき、現在、
法治国に生きる我々はこの法に従わなければならない。しかも、
その露骨な描写の故にのみ、あたら文学上の名作が、翻訳され
ないままですまされていることが多い。そこで、その表現のみ
を、改め、法治国の合法出版に許される範囲に書き直し、以っ
て、闇に葬りさられんとする名作を、一般の人々の目に触れる
場所に紹介したい。この全集はかかる意図を以って刊行された。
 いずれも、本邦未翻訳であり、もしこの専任筆者清水正二郎
氏の如き練達の人を得なければ、今後永久に日の目を見ないも
のばかりである。
 性と肉体に真向から対決した、悩み多き人々の文学の苦悩を、
是非、この全集から、読みとっていただきたい。

(追記)
 上記の高邁(?)な刊行趣意もむなしく、「世界秘密文学選
書」は1965年、悪書追放運動の煽りを受けて全巻まとめて
発禁処分という異例の事態に見舞われる。が、この事件により
版元の浪速書房は日本の戦後サブカル史に名を残すエライ出版
社とあいなった。めでたし、めでたし。 




--------------------------------------
Yahoo! JAPAN Search Word Ranking 2006
http://pr.mail.yahoo.co.jp/search/
posted by 下等遊民 at 01:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック