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サブカル雑食手帳

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2007年02月13日

わが想い出の書「エロ事師たち」

 「エロ事師たち」という小説は野坂昭如氏の作家としてのデ
ビュー作という意味で、氏にとってはいわば記念碑的作品に当
たるわけだが、私にとっても中学校時代に読んだ最初の文学作
品がこれだったという意味で記念すべき作品である。
 「エロ事師たち」とは、エロ本、エロ写真、ブルーフィルム
(これについてはあとで触れる)、ラブホテルでの盗聴テープ
など、およそ違法とされる、ありとあらゆるエロ商品の製造販
売を生業とする人々のことであり、この作品は彼等の猥雑極ま
る生きざまをユーモラスであっけらかんとした関西弁によって
生々しく活写したもの。
 例えば作者はスブやんと呼ばれる主人公の中年男に自らの特
異な信念を作品の中で次のように語らせている。
 
 「大体、人間生きる楽しみいうたら、食うこととこれや、そ
のこっちがあかんようなってみい、いかな大会社の社長やいう
て威張っとったかて生きてる甲斐あれへんわ。よう薬屋でホル
モン剤やら精力剤やら売ってるやろ。いうたらわいの商売はそ
れと同じや、かわった写真、おもろい本読んで、しなびてちん
こうなってたもんを、もう一度ニョキッとさしたるわけや、人
だすけなんやで。今までなん人がわいに礼をいうたか、わいを
待ちかねて涙ながさんばかりに頼んだ人がおったか、後生のえ
え商売やで」

 この作品は全編こんな調子の露悪的で猥雑なトーンに貫かれ
ているわけだが、それにもかかわらずこの作品が凡百の好色文
学と全く異なるのは、これが少しも「性の謳歌」になっていな
いばかりか、「性の解放」をそのまま「人間の解放」にリンク
させる類いの健全で前向きなオプチミズムとはいかなる意味で
も対極に位置する作品に仕上がっている点であろう。
そのことはこの物語の主人公がありとあらゆる性的妄想に応じ
たエロ商品を顧客の男達に提供する立場にありながら、というか、
あるがゆえにかえって彼自身はいかなる性的妄想をも顧客の男
達と共有することができず、ついには完全なるインポテンツの
状態に陥ってしまうといった逆説的な性の描き方にも端的に表
れている。
心理学者の岸田秀氏は男の性欲というものが様々な幻想(妄想)
の上に辛うじて成り立つ砂上の楼閣のごときものであることを
盛んに主張しているが、性的妄想に取り憑かれてスブやんの顧
客になる男達も、性的妄想を抱けないがゆえにインポテンツに
陥ってしまったスブやんも、上記の岸田説を見事に体現したよう
な存在であることに変わりはない。
 物語の終わりに近いところで、自分が開催した乱交パーティ
眺めても何も感じなくなったスブやん、昔、早稲田の講議録で
読んだ芭蕉を思い出し、自作の歌を詠みあげるが、その歌の最
後のオチは「男の果ては皆インポなり」と限りなく切ない。

(資料)「ブルーフィルム」について

 最近は全く耳にしなくなった「ブルーフィルム」という言葉
が、野坂昭如「エロ事師たち」の中では頻出するが、これは言
うまでもなく戦後混乱期から高度成長期あたりまで闇ルートで
出廻っていた猥褻フィルムのこと。裏ビデオに幾つかの名作が
あるように「ブルーフィルム」にもやはり名作と呼ばれるもの
が存在したようだ。それを証明するようなエピソードが「日本
風俗史新聞」(日本文芸社)に載っていたので参考までに引用
しておくことにする。(以下引用)

 (東京=1951年9月10日)
 黒澤明監督のベニス映画祭グランプリ受賞が話題になってい
るが、ブルーフィルム界でも文芸大作「風立ちぬ」を製作。早
くも傑作との評判を呼んでいる。
 制作者は須藤精一郎さん。だが本名よりもその実力を評価さ
れて「ブルーフィルム界の黒澤明」と呼ばれることが多い。須
藤さんは明治39年、高知県生まれ。終戦まで密輸とヒロポン
の売買で稼ぎ、戦後は高知市内でマージャンとバーを経営。そ
のバーの名前が「シックスナイン」だったことから、ブルーフィ
ルム界の某男優が「これは相当の好き者」とばかりに、この世
界に誘い込んだ。
 処女作は昨年完成した「未亡人の火遊び」。映像が優れてい
るところから、一本五百円の相場に四千円の高値がついた。そ
して今回「風立ちぬ」を完成した。
 内容は、水郷・潮来に浮かんだ和船で繰り広げられる男女の
痴態。黒いフンドシ姿の青年と娘のセックスシーンはすべて水
面を通して撮られ、その幻想的なカメラワークが評判を呼んで
いる。








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posted by 下等遊民 at 01:57| Comment(4) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TBありがとうございます。
団鬼六センセの本の方にTBしていただいたの
ですが、一度TBしてるので、
こっちの写真の方でTB返ししますね。

あらゆるエロ商品があって、それを利用する人が
たくさんいるんですねー。
とってもためになりました。

男の方にとって、「赤い玉がでるまで・・・」という
Xデーは恐怖なんでしょうね。

Posted by ユカリーヌ at 2007年02月15日 16:55
 >ユカリーヌ様

 コメントとTB、サンクスです。
 実はTBいただく前に「日本ヌード写真史」と「日本トップヌード100人選」の記事を興味深く読ませて頂き、こちらの方にTBさせて頂こうかと迷った次第でした。どちらも昭和の香り濃厚といった感じで郷愁をそそられます。女性の目から見て、女性のヌードがどう映るのかってのはかなり興味津々であります。
Posted by 下等遊民 at 2007年02月15日 23:16
突然のコメント失礼いたします。
ブログ拝見しました。とても素晴らしいブログですね。
これ、作るのすごい時間かかったんじゃないでしょうか?
内容も充実してますし、ブログ作るのも大変ですからね。
私もブログ作っていますので、ブログ作りの大変差も楽しさも
わかってます。すごく良いブログだったので、思わずコメント
してしまいました。また、じっくりと過去の記事なども読ませていただきます。
Posted by ナンパ師 at 2007年08月27日 00:00
 >ナンパ師様

 コメントありがとうございます。「とても素晴らしいブログ」などと過褒ともいえる言葉(さすがナンパ師だけあって褒め上手?)を頂きましてただただ恐縮するばかりです。元々ずぼらな性分なのでたまにしか更新しませんが、いつでも気軽にコメントして下さい。では今後ともよろしく!
Posted by 下等遊民 at 2007年08月27日 19:48
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Tracked: 2007-02-15 16:33