曲と思いがちだ。しかし、実は埋もれたものにこそお宝がある
のではないか。」(石橋春海著「封印歌謡大全」前書より)
TBSラジオ7月22日の特別番組「TABOOSONGS
〜封印歌謡大全」で解説を担当した石橋春海氏がこの番組に先
立って執筆した「封印歌謡大全」という本はラジオ放送がまだ
なくて演歌師が街頭で歌っていた大正末期から、邦楽ポップス
がJポップと呼ばれるようになった平成にかけての、様々な理
由で封印されてしまった歌(全158曲)をその時代背景とも
合わせて考察している点でなかなかの力作である。曲のライン
ナップについては、類書とも言える「放送禁止歌」(森達也著
解放出版社)と重複する部分もかなりあるが、「封印歌謡大
全」の方は戦前、戦中における封印歌謡も取り上げているため、
当時の表現規制が出版物のみならず歌謡曲に対しても、いかに
凄まじいものであったかを証明する資料としても貴重。
封印されてしまった理由は、反社会的、反権力的、退廃的、
エロ、差別用語使用、戦中の場合には単に戦意を阻喪させる、
また克美しげるの歌のように歌自体に問題はなくても歌手が罪
を犯してしまった場合など、それこそ千差万別であるが、戦後
はメディアによる自主規制によって封印されたケースがほとん
どのようだ。158曲の中には名曲と言っていいものも少なか
らず含まれているが、超スグレモノを私の勝手な思い込みで厳
選(?)したのが下の20曲。(< >内は主な封印理由)
(1)『暗い日曜日』淡谷のり子(1936)
<歌詞が絶望的、世界的な自殺誘発ソング>
(2)『裏町人生』上原敏&結城道子(1937)
<非国民的歌謡、亡国の歌>
(3)『さすらい』克美しげる(1964)
<克美しげるが愛人殺害容疑で逮捕された>
(4)『ヨイトマケの唄』丸山明宏(1965)
<「ヨイトマケ」「土方」は差別用語>
(5)『悦楽のブルース』島和彦(1965)
<成人映画の主題歌>
(6)『イムジン河』ザ・フォーク・クルセダーズ(1968)
<朝鮮総連からの抗議>
(7)『手紙』岡林信康(1969)
<被差別部落出身の女性が歌の主人公>
(8)『戦争小唄』泉谷しげる(1971)
<反社会的、逆説的反戦歌>
(9)『放送禁止歌』山平和彦(1972)
<「職業軍人・時節到来」という歌詞>
(10)『心中日本』長谷川きよし(1972)
<曲名にクレーム>
(11)『赤軍兵士の詩』頭脳警察(1972)
<露骨な政治的メッセージ>
(12)『おそうじオバチャン』憂歌団(1975)
<職業差別というクレーム>
(13)『時には娼婦のように』黒沢年男(1978)
<歌詞が背徳的>
(14)『きょうだい心中』山崎ハコ(1979)
<近親相姦がテーマ>
(15)『れ・い・ぷ フィーリング』小林万里子(1979)
<「レイプ」は平仮名でもダメ>
(16)『ボスしけてるぜ』RCサクセション(1980)
<労働意欲を削ぐ>
(17)『サマータイム・ブルース』RCサクセション(1988)
<原子力発電に反対する歌>
(18)『すべての歌に懺悔しな!!』桑田佳祐(1994)
<矢沢永吉と長渕剛を侮辱>
(19)『あこがれの北朝鮮』ザ・タイマーズ(1995)
<当時、「北朝鮮」は朝鮮民主主義人民共和国の蔑称だった>
(20)『君が代』忌野清志郎(1999)
<国歌法制化反対の歌と看做された>
上記の曲はほとんどが現在CDとして復刻されており、放送
でかかることはなくてもCDで聴くことは可能だが、克美しげ
るの場合は「さすらい」のみならず、すべての曲が今なお封印
状態。当分、復刻の見込みはないようだ。つい先日、たまたま
覗いた中古レコード店で「さすらい」のシングル盤を見つけた
のだが、大抵のシングル盤に200円〜500円くらいの価格
が付いている中、「さすらい」には3300円という高値が付
けられていた。
「れ・い・ぷ フィーリング」で世間の顰蹙を買った小林万
里子の初のアルバム「ファーストアルバム」は、「便所のブル
ース」「中絶のブルース」「日の丸ブギ」などリスナーの神経
を逆撫でする歌ばかりを収録。このうち「日の丸ブギ」につい
ては、ミリオン出版刊「実話ナックルズEX」9月号掲載の記
事「女性歌手限定・問題歌謡大全」の中に次のような面白い論
評を発見した。
「ポスト研ナオコといわれたが、デビューアルバムが発売直
前に急遽中止。発売元があまりの汚い、醜い内容におののき
『この世に出してはいけない』と判断したのだ。すべてが神経逆
撫でソングだが、特に生理をテーマにした『日の丸ブギ』は女
性でなくても耳を塞ぎたくなる不快歌だ。」
泉谷しげるの「戦争小唄」は、敢えて好戦的な歌詞を並べる
ことによって戦争の愚劣さを浮き彫りにしようとした、一種の
逆説的反戦歌だが、歌詞の激越さにおいて、これをさらに凌駕
するような逆説的反戦歌が鈴木邦男著「夕刻のコペルニクス」
の中で紹介されているのを発見した。それは在日歌手川西杏
(チョン・ソヘン)の「従軍慰安婦・幸子」という歌。
♪朝鮮人の女は慰安婦になればいい
韓国人の女は慰安婦になればいい
日本の兵士に抱かれて 死んで行けばいい
日本の為に尽くして 死んで行けばいい
何とも凄まじい歌詞であるが、鈴木邦男氏は同書の中でこの
曲について次のように書いている。
「初め、この歌詞は慰安婦が自嘲的に呟いているのだと思った。
忌まわしい自分の運命を呪う逆説なのだと。しかし、どうも
日本軍人の怒号であり、<本音>のようにも聞こえる。『何も
そこまでやらなくとも』と、在日同胞からの批判の声もあると
いう。だが、誇り高き民族を侵略し、女性を慰安婦にした日本
の恐ろしい事実に対しては、恐ろしげな歌で挑発し、糾弾する
しかない。川西さんはそう思っているのだろう。余りに危険す
ぎてどこのテレビ、ラジオ局も川西さんを出さない。これだけ
真正面から戦争、国家、差別の問題を取り上げているのに。
『俺だって金嬉老』という歌があるが、川西さんがそう歌い、
そう思い詰める気持ちもわかる。」
右翼を自認しつつも、「誇り高き民族を侵略し、女性を慰安
婦にした日本の恐ろしい事実」にどこまでも真摯に向き合おう
とする鈴木邦男氏の人間的誠実さに敬意を表したい。
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