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サブカル雑食手帳

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2005年10月05日

悪魔?それとも殉教者? サドという作家

サディズムという語の語源でもあり、最近では映画「クイル
ズ」で晩年の精神病院での奇行ぶりをジェフリー・ラッシュが
見事に演じ切ったことで再び注目を浴びた18世紀フランスの
作家マルキ・ド・サド。日本では故・澁澤龍彦氏が「続・悪徳
の栄え」(マルキ・ド・サド著 澁澤龍彦訳 現代思潮社刊)
のわいせつ文書としての摘発に端を発した所謂「サド裁判」以
来、サドの文学や思想について精力的に紹介してきたことが、
サドに対する評価を高める上で大きく貢献したものと思われる

 サドという人物が、私の興味を惹き付けてやまないのは、そ
の作品の破天荒さもさることながら、過去の歴史の中で、彼に
ついて下された評価があまりにも毀誉褒貶に満ちているためで
もある。
 古い本ではあるが、極めて真面目なサド研究書「マルキ・ド
・サドの生涯と思想」(ジェフリー・ゴーラ著 大竹勝訳  
 荒地出版社)の巻頭で紹介されている多様なサド評価には、
肯定的なものも否定的なものも偏らずに含まれており、サドと
いう人物の全体像を知る上で極めて重宝である。以下に引用し
ておこう。

 「・・・・この怪物作家・・・・」
       レチフ・ド・ラ・ブルトヌ  1797年

 「マルキ・ド・サドの『ジュスチイヌ』と『ジュリエット』
とを知っている読者なら、これらの不潔な本が与えるところの
娯楽の文体に対する、わたしの恐怖と怒りとを理解されるでし
ょう。参照した両著(この上もなく冒涜的で、淫らなもので、
この手紙の日付後、間もなく、地獄から、高熱のまま、ほとば
しり出たものです)は、あらゆる種類の拷問によって、前代未
聞の放蕩の数々を刺激する目的で試みられた経験の記録で一杯
です。」
       W・ベックフォード  1784年に書かれ
       た手紙への追伸(サドは、この日付けでは、
       何も出版していないことに注意してもよかろう。)


 「この残酷で血腥い冒涜者、悪魔の熱情をあおりたてた怪奇
きわまる幻想の、淫らな語り手マルキ・ド・サド・・・本当に
、君が誰であろうとも、これらの本に触れてはならない。それ
は、君自身の手で、眠りを、安らかな眠りを、殺すことになる
だろうから。」
       J・ジャナン    1834年


 「あらゆる罪悪ときたなさの熱狂的な寄せ集め。」
       F・スーリエ    1837年


 「サド  フランスの栄光の一つ   一殉教者。」
       P・ボレル     1839年


「反対されることを恐れず、あえて確言するならば、バイロ 
ンとサド(この比較を許していただきたい)とは、おそらく、
最も偉大な近代の鼓吹者であった。前者は公然と宣言し、後者
は秘密的であったーしかし、あまりに秘密的だというほどのこ
ともあるまい。」
       サント・ブーヴ    1843年


 「あの有名で、報いられることのなかった人類の恩恵者。

 普通、作品というものは、合理的な好奇心の価値ある研究と
いうよりも、老いぼれには刺激的であり、若者には下剤である。


 わたしの無神論を適切に攻撃しながらも、あなたが、故意に
出典を誤り伝えたことは遺憾に耐えません。もし『一風変わっ
たバイロン』を『一風変わったサド』とお書き下さったら、そ
の明敏な文章に、わたしは敬意を表したでありましょう。わた
しの詩の神学の源泉であるかの詩人、思想家、通人はバイロン
よりも偉大な人物でした。彼が宿命論者であろうと、なかろう
と、まことに、彼は神々と人間たちのどん底まで見きわめたの
です。

 彼は眠ったか笑ったか? それを知っているのか?
 今や彼は息も切れて、手の届かぬところに眠るのかー
 お前の予言者、説教者、詩人たる彼は?」
      A・C・スウィンバーン(1860年ー1880年) 
   
      

 「悪を解き明かすためには、常にサド、すなわち、この自然
人に帰らねばならない。」
      シャルル・ボードレール『内心の日記』


 「フローベール、サドに憑かれた精神の持主・・・・サドに
ついての談話、フローベールはつねにそれに話を戻す。」
                 『ゴンクールの日記』


 「マルキ・ド・サドは、おそらく、希代の非凡人の一人であ
って心理学的研究には、極めて興味ある主題である。自然はこ
れまでに、物心両面において奇妙な発育不全を生じたが、おそ
らく、サドにまさるほどの大きな精神的怪物を生じたことはか
つてなかったと思われる。」
       ピザーヌス・フラクシー   1880年


「マルキ・ド・サドは異常で、怪奇な精液政体の世界の芸術を
総合し、これを極限にまで押し進めるように宿命づけられた人
間であった。彼はこのジャンルにおいて、あらゆる古代人を凌
駕し、恐怖の世界に男根崇拝狂の巨大な柱を打ち建てた。幸い
にして人類は、今後、決してこれ以上に及ぶことはあるまい。
サドはエロティシズムの分野に限界線を引いたとも言えよう。」
        O・ユザンヌ        1901年


 「十八世紀の、いや人類始まって以来とも言うべき、最も驚
嘆すべき人物の一人が生れたのは1740年の6月2日である。
 マルキ・ド・サドの諸作品は医学の対象になると共に、歴史
と文明の対象ともなっている・・・・また今一つの見地からすれば、
マルキ・ド・サドの諸作品は、文明を研究する歴史家にとって、
また法学者、経済学者、倫理学者にとって、汲めども尽きぬ源泉
となるのである。」
       オイゲン・デューレン(イワン・ブロッホ) 
               1901年、1904年


 「十九世紀の間じゅう、黙殺されていたかのように見えたこ
の人物は、二十世紀を支配するようになるかもしれない・・・
 マルキ・ド・サド、これまでに存在したこの最も自由な精神
の持主・・・・読者はこれらの小説を読んで、ともすれば、不
愉快な表面の文字にこだわって、不幸にも、その根底に横たわ
る分析が精神を開放させるまでには至らないのである。」
       G・アポリネール     1909年


 「D・A・F・サド。フランスの淫らな作家。」
       エンサイクロピーディア・ブリタニカ十三版


 「サドは彼の見解によって書いた。彼の思想は放埒なもので
はあったが、少なくとも、彼は誠実であった。多分それが彼を
あのように無気味な作家にさせた所以であろう。たんなる淫ら
さは、常に、いやなもので、ほとんどいつでも退屈である。が
、ここでは、それ以上のものが多分にあって、彼は、すさまじ
く大真面目であったのだ。」
         C・R・ドウズ      1927年


 「わたしは、どうしても、彼を本気で取り扱うことが出来な
い。」     D・ブールダン   1929年


 「どうしても、大家の中に入れなければならぬ作家。」
         J・ポーラン    1930年


 「サドは彼を読むことの出来なかったまる一世紀(十九世紀
)を不安にさせた後、しだいに次の世紀(二十世紀)の不安を
静めるために読まれるであろうという点を信ずるには、十分な
理由がある。」    M・エーヌ      1930年


 「作家の中でーわれわれは天才作家の中でと言っているので
はないーサドは最も基本的な諸要素を欠いていた。アレティノ
すらも及ばぬほどの、多作で好色的であって、彼の主な価値は
、精神病理学の小児神話的な面に文献を残したということであ
った。彼は性異常に体系的な記述を形成した最初の人であった。」
          M・ブラツ       1930年


 「もし在るとすれば、この点でサドには異常さと欠陥がある
。緊張の代わりに分裂が存在する。しかも、事実、その分裂は
、意識の薄明状態や動揺とは無関係である。サドは葛藤からは
身をそらし、自分自身に対して責任を取らず、自己を制御しよ
うとの必要を全然感じない・・・・二重人格を持った人間が天
才になる例としてはキルケゴールがあり、その反対に、二重人
格を持った人間が哀れで無益な悲劇をおびた否定的人物となる
例としてはサドがある。」   O・フラーケ   1930年


 「このユニークな声を聞くことが出来て、その啓示の深い意
味を誤解することのない者なら、それから離れ去ることは出来
ない。」      M・エーヌ        1931年


 「人が善であるか、悪であるかはどうでもよい。わたしにと
って大切なことは聡明な人か、愚人かということである。」 
   W・ブレイク『エルサレム』より


 (附記) 私は先に毀誉褒貶という言葉を用いたが、文学作
品に関する限り、「危険」であるとか「冒涜的」であるとかと
いった評価は、その作品の価値を高めこそすれ、決して貶める
ものでないということだけは強調しておきたい。



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posted by 下等遊民 at 23:48| Comment(5) | TrackBack(5) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TBありがとうございました。

数多くの引用文、大変興味深く読ませていただきました。
サドを読む時に、つい忘れがちなのが、彼を取り巻いていた(宗教を含めての)時代背景です。
そういった中で、信念を貫いたサドの生き方は感動すら覚えますね。私の記事中にあるように、コントロールできないほどの性癖だったとしても。(笑)
Posted by gutapy at 2005年10月07日 00:43
はじめまして、
前回いただいたTBの記事も、
今回の記事もとても興味深く拝見しました。
昔、澁澤先生から入って、バタイユ、サド、と
有名どころをかじりはしたものの、彼らの描く世界のいくばくをも理解できずに今に至っています。
けれど記事を拝見しているうちに昔、胸に抱いた
どきどきとわくわくを思い出し、
本棚にしまわれた本をまた手にとろうとしています。
Posted by くるっぱー at 2005年10月07日 02:22
この度はTRBありがとうゴザイマス。
サドと言う人物に対して
時間が経過しても、これほどまでに興味を注がれまた
研究対象にもなること自体が、スゴイですね。
興味本位で近付くと抜け出せなくなる・・・
映画『クイルズ』ではホアキン・フェニックス 演ずる
クルミエ神父がサドの魔力に抗っていた様子が伺えます。
嫌悪しつつ惹かれてしまう『クイルズ』を観ていると
なんとなく…ですがわかるような気がします。
こちらからもTRBさせていただきました。
Posted by soratuki at 2005年10月10日 16:42
TB&コメントありがとうございます。
TBがよくわからなくて遅くなりましたm(_ _)m
他にも、まだ読みたいものはあるのですが
次は矢川澄子「おにいちゃん-回想の澁澤龍彦」を入手したい。と思っています。
伝説の雑誌「血と薔薇」の情報、ありがとうございます!そちらも合わせて探そうと思います
Posted by mirrorka at 2005年10月13日 21:34
トラックバック有難うございます。
映画「クイルズ」を観たあとで、とても参考になります。

掴みどころのなさが、映画以上ですね。
Posted by エクセルシオ at 2005年10月15日 23:27
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