「その作風を一言のもとに要約するならば、通俗シュルレアリスムといったようなものだ。私はあえて通俗と呼ぶが、この通俗という言葉に、いささかの羨望をこめていることを承知していてもらいたい。実際、ここまでぬけぬけと自分の夢に溺れることができた画家は、その絵が売れようと売れまいと幸福だったのではあるまいか。
売れようと売れまいと? いや、それどころか彼は自分の絵を一枚も売ろうとはしなかったのだ。画壇とも画商の世界とも完全に断ち切れたところで、彼はひたすら自分の夢をつむいでいたのだ。」
これは画集「イリュージョン」の巻頭に掲載されていた「みずからを売らず」と題された故・澁澤龍彦氏の賛辞であるが、澁澤龍彦氏が秋吉ワールドの良き理解者であったのは想像に難くない。
また秋吉ワールドのもう一人の良き理解者である鶴岡法斎氏も、その著書「ガラクタ解放戦線」(イーハトーヴ出版)の中でこの澁澤氏の見解に同意しつつ次のように書いている。
「画壇や画商との交流のない世界で彼は自分自身の作りあげた世界に飲み込まれていくことを夢見ていた。そのためにはその作品世界はより密度の濃いものとならなければはらなかった。
秋吉巒の頭の中には完璧な作品世界の誕生しかなかったようだ。自分の小宇宙に向かうベクトルしか持っていなかった彼には自分の分身とも言える作品たちも未完成にしか思えなかった。
そして何度も同じテーマを選び、描き続けていった。彼は自分の世界が完成した時にその分身を世に解き放とうとしたのではないだろうか。」
いかなる領域においても経済の法則が厳然と支配している資本主義社会にあって「みずからを売らず」のスタンスを貫くことは言うまでもなく至難の業であり、澁澤氏や鶴岡氏が秋吉巒氏について語った言葉は、彼が「偉大なる奇人」であったことを証明するに十分足るものであろうと思われる。

