ように、昔、古書店をまわっては古いカストリ雑誌を渉猟して
いた頃、それらの雑誌群の中でもマニア色の強さと内容の豊富
さゆえに特に私が魅了されていたのが日本特集出版社発行の
「風俗草紙」誌であった。
最近はこのテの雑誌が扱う性的嗜好も細分化、専門化が進み
各種のマニア専門誌が生まれているが、まだ異常性愛誌という
ジャンルが誕生したばかりの「風俗草紙」誌の時代には一誌の
中に多種多様な性的嗜好が並存しているといった状況であった。
「風俗草紙」誌もその例にもれず、サディズム、マゾヒズムは
もとより女装、同性愛(男色、レスビアン)、窃視、露出、フ
ェティシズム、獣愛、切腹愛好、死体愛好など様々な性的偏向
が主としてマニアの告白手記という形で取り上げられていたが、
なんといってもこの雑誌をひときわ目立つ存在たらしめていた
のは秋吉巒氏の手になる幻想的でグロテスクな表紙絵(その作
風には明らかにボッシュ、ブリューゲル、ダリ、エルンストな
どの影響が見て取れる)であった。氏が好んで描く奇怪な怪物
や悪魔たちはどことなくユーモラスでもあり、この雑誌の猟奇
的でマニアックな内容を暗示しているかのようであった。生前
(氏は1981年58才で他界)には、まとまった画集が一冊
もなく、私の記憶の中で秋吉巒氏の絵といえば、昔愛読してい
た「風俗草紙」誌のイメージしかなかったので、秋吉巒氏の死
後、息子の裕一氏の編纂によって初めて世に出る事になった氏
の画集「イリュージョン」(文芸社)を手にした時も、そこに
見たのはあの懐かしくも妖しい「風俗草紙」誌の世界そのもの
だったのである。
「その作風を一言のもとに要約するならば、通俗シュルレア
リスムといったようなものだ。私はあえて通俗と呼ぶが、この
通俗という言葉に、いささかの羨望をこめていることを承知し
ていてもらいたい。実際、ここまでぬけぬけと自分の夢に溺れ
ることができた画家は、その絵が売れようと売れまいと幸福だ
ったのではあるまいか。
売れようと売れまいと? いや、それどころか彼は自分の絵
を一枚も売ろうとはしなかったのだ。画壇とも画商の世界とも
完全に断ち切れたところで、彼はひたすら自分の夢をつむいで
いたのだ。」
これは画集「イリュージョン」の巻頭に掲載されている「み
ずからを売らず」と題された故・澁澤龍彦氏の秋吉評であるが、
澁澤龍彦氏が秋吉ワールドの良き理解者であったのは想像に難
くない。
また秋吉ワールドのもう一人の良き理解者である鶴岡法斎氏
も、その著書「ガラクタ解放戦線」(イーハトーヴ出版)の中
でこの澁澤氏の見解に同意しつつ次のように書いている。
「画壇や画商との交流のない世界で彼は自分自身の作りあげ
た世界に飲み込まれていくことを夢見ていた。そのためにはそ
の作品世界はより密度の濃いものとならなければはらなかった。
秋吉巒の頭の中には完璧な作品世界の誕生しかなかったよう
だ。自分の小宇宙に向かうベクトルしか持っていなかった彼に
は自分の分身とも言える作品たちも未完成にしか思えなかった。
そして何度も同じテーマを選び、描き続けていった。彼は自
分の世界が完成した時にその分身を世に解き放とうとしたので
はないだろうか。」
いかなる領域においても経済の法則が厳然と支配している資
本主義社会にあって「みずからを売らず」のスタンスを貫くこ
とは言うまでもなく至難の業であり、澁澤氏や鶴岡氏の秋吉評
は彼が「偉大なる奇人」であったことを証明するに十分足るも
のではないだろうか。
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